自句自解(1) 街への花火 

このブログのコメントで、花火さんから、私の句の鑑賞を求められました。

http://banyahaiku.at.webry.info/200612/article_6.html

女子(?)高校生の方からです。以前にも、九州の図書館を通じて、同じ句の解釈をファックスで求められたことがあります。

私は、大学の教師ですが、高校教育にも、貢献できればと思い、あえて作者の自解を、記事にしてみます。私の娘も、いまちょうど高校1年生です。
ただ、作品は、作者の思い入れを越えるということを念頭に置いて、あくまでも鑑賞の参考にしていただければ、さいわいです。

    街への投網のやうな花火が返事です  夏石番矢
    
(句集『メトロポリティック』、牧羊社、1985年、23ページ)

お尋ねの俳句は、これが初出形であり、出典です。同じ句集から、教科書に採用された句には、このほかに、

    未来より滝を吹き割る風来たる

    千年の留守に瀑布を掛けておく

などがあります。

さて教科書には、現代仮名遣いで、次のようなかたちで出ていると思います。

    街への投網のような花火が返事です  夏石番矢   
  
この句は、私が大学院生のころ作りました。まだ、自分の進路がはっきりしなかったころでした。

「街への」という表現には、対立する「地方」や「田舎」が暗示されています。「街」への対抗意識が表されているかもしれません。

「投網」(とあみ)は、「街」全体をからめとりたいという心の形象化でしょう。江戸時代の浮世絵で、投網をこのころ見た記憶があります。その木版画の作者名は、忘れてしまいました。

「投網のような花火」という直喩で、「投網」と「花火」を、一体化して表現しています。

それが、なぜ「返事」なのか?
誰への「返事」なのか?

これが、この句の鑑賞のポイントでしょう。

「返事」を、「街」に住んでいる恋人への返事と考えると、たしかによりロマンチックな句になります。これも一つの解釈です。

兵庫県の相生市という小さい町出身の私には、大都会東京という「街」を見返す大きな業績を上げたいという、気負う野心もありました。それが、大きな「街」への「返事」かもしれません。

いずれにせよ、51歳になった作者にとっては、なつかしい句。青春の恋や夢を、大胆に暗示的に表した1句です。

追記
記事にある浮世絵は、歌川広重『江戸名所百景』の「利根川ばらばらまつ」でした。
花火さんが教えてくれました。

画像













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この記事へのコメント

風花
2007年01月14日 18:57
未来より滝を吹き割る風来たる
千年の留守に瀑布を掛けておく
大好きな句です!
番矢さんの宇宙的な大きな感覚が、「空飛ぶ法王」まで行っちゃうんですね!
Fujimi
2007年01月14日 21:25
若い花火さんにも、貫禄のある風花さんにも、お役に立てて、なによりです。
またご要望があれば、自句自解を記事にします。
Fujimi
2007年01月14日 22:24
花火さんありがとう!
「投網」ということばは、この浮世絵の解説で知りました。たしか、新聞の日曜版にカラーで「利根川ばらばらまつ」が掲載されていたように記憶しています。
娘が使っている教科書にも、「街への花火」が出ているそうです。
風花
2007年01月15日 06:51
是非また、自句自解をお願いします!
Fujimi
2007年01月15日 17:20
どの句の自句自解をお望みですか?
風花
2007年01月15日 18:31
巨石巨木学の句集の中から、この一句お願いします!
智慧桜黄金緒根轟轟悦予
Fujimi
2007年01月15日 19:38
この句は、少々厄介ですが、やってみましょう。
花火 
2007年01月25日 22:38
こんばんは!
街への花火・・の句でまた質問があります。
『投網』は、とあみ、とうあみ、なげあみ、うちあみ、という読み方がありますが、どの読み方で読むのが最も適していますか?
Fujimi
2007年01月25日 22:48
上の記事に、すでに(とあみ)と書きましたが、作者は「とあみ」です。
こういう作者の特権は、生きている間だけのもの。

花火
2007年01月25日 22:58
ありがとうございました。
やはり、時がたつにつれ、読み方やその句の捉え方などは、少しずつ変わっていってしまうのでしょうね。
生きている間に、夏石先生にいろんなことを聞けて良かったです。
Fujimi
2007年01月25日 22:59
ローマ字で表すと、このようになります。

machi e no toami no
youna hanabi ga
henji desu

8・7・5音の俳句です。


花火
2007年01月25日 23:18
街への/投網のやうな/花火が返事です
4・7・9音の俳句という説明があったのを見たことがあるのですが・・
8・7・5音にしているのには、何か理由があるのですか?
Fujimi
2007年01月25日 23:35
俳句について、教科書や参考書を書いている人の感性が悪く鈍いのは、ほんとうに困りますね。
なぜ、4・7・9音なんですかね。
とくに最後の
花火が返事です
という切り方には、鈍感さを感じます。

街への投網の/ような花火が/返事です
のほうが、ずっと響きがいいはず。口ずさんで、くらべてみてください。

日本語の音感の悪い人の害毒を、今回知りました。ありがとう。






花火
2007年01月25日 23:47
俳句をつくる時には、やはり響きを大切にしているのですか?
Fujimi
2007年01月25日 23:54
もちろん、響き、あるいはことばの音楽性は命です。
5・7・5音を超えた自由な俳句の響きが、教育現場で、ほとんどまともに指導されていないのですね。
花火
2007年01月26日 06:58
ありがとうございました!
HARU
2007年01月29日 23:14
初めまして。突然の書き込みをお許しください。
僕も高校生で、現在この句を調べています。

残念ながら僕は俳句や短歌の本心(?)というか、例えばこの句からロマンチックさを感じ取ったりする事があまり出来ない人間なのですが(申し訳ないです)、単純にこの句のダイナミックさに惹かれました。
さて、夏石番矢様は世界の俳句の編集などを手がけていて、翻訳活動もされていると聞きました。
その件で、この句の英訳等はありますか?興味があるのですがもしあればお願いします。
Fujimi
2007年01月29日 23:48
解釈には幅があり、私の句には、多義性、つまり複数の解釈を許す特徴があります。
まだこの句の英訳はありませんが、作ってみましょう。記事として立てます。
英訳、もしくは仏訳は、私が下訳を作り、ネイティブに磨き上げてもらっています。
若い皆さんには、日本文化を、海外に広めるため、英訳に限らず、外国語訳がこれからもっと必要になるでしょう。
Fujimi
2007年01月30日 10:40
この句の英訳は、2通りできましたが、いま少しお待ちください。3通り作ってみたいので。
HARU
2007年01月30日 22:21
そうなのですか、ありがとうございます!
楽しみに待っています。
俳句は日本だけの閉ざされた文化だと思っていたので、こういう外国語訳や外国人の句があることは驚かされました。

それと、何度も申し訳ないのですが、この句の季語は「花火」(夏)でいいのでしょうか、それとも無季でしょうか?
Fujimi
2007年01月30日 22:53
日本では夏、海外では無季でしょうか。
ですから、英訳では無季です。
花火
2007年01月31日 19:19
こんばんは!私も、この句の英訳がとても待ち遠しいです!最近、夏石先生が書かれた《世界俳句入門》を読みました。ただ、俳句を外国語に直したときの、音の響きなどがよく理解できていないので、この句の英訳と共に、教えていただきたいです!
そして、またまたこの句について質問があるのですが・・この句は、全体的に口語体になっていると思いますが、《投網のやうな》のところで、《ような》ではなくて、《やうな》にしているのには、何か理由があるのですか?
また、《返事です》の《です》は、切れ字と考えて良いのでしょうか?

Fujimi
2007年01月31日 20:52
響きは、とにかく自分で作品を朗読してください。仮名遣いは、第三句集『真空律』までは、歴史的仮名遣いを採用していました。いまは、現代仮名遣いです。それだけのことです。たしかに口語調の句ですね。「投網の」の「の」も、「ような」も切れ字、「です」も切れ字です
花火
2007年01月31日 21:44
ありがとうございます。
フランス語では、音数をどのように数えるのですか?
例えば・・世界俳句入門の中で紹介されている松下晴江女さんのままこのしりぬぐいの句で、日本語だと575音になることはわかるのですが、フランス語で589音になるのがわかりません。外国での音数の数え方をどうか教えてください!!
HARU
2007年02月01日 22:37
失礼ながらメールを送ったので、よろしくお願いします。
Fujimi
2007年02月02日 09:31
HARU君、君からのメールと思われるもの、今朝、受信されていませんでした。Spamチェックではじかれたか、あるいは?、という状況です。PC一台、ウイルスにやられてしまいました。
英訳はやっと、3通りそろいました。次にアップします。
Fujimi
2007年02月02日 10:17
HARU君と明確にわかるようなメールを、もう一度送信してくれますか?
HARU
2007年02月03日 13:33
英訳ありがとうございます。
メールの件はたいしたことがないので気にしないでください(汗)

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