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<<   作成日時 : 2014/05/03 15:27   >>

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スマイル・ドゥルミシェヴィッチの俳句
――俳句集『野薔薇の芳香』“Fragrance of the Wild Rose”

土谷直人


 彼は、まずもってボスニア俳句詩人である。日本人には馴染みが薄いが、ユーゴスラヴィア内戦の最中、1992年に独立を宣言し、「ボスニア・ヘルツェゴヴィナ共和国」となったが、それぞれ宗教を異にするカトリックのクロアチア人、イスラムのボシニャク人、正教のセルビア人の住む国と成った。彼はその狭義のボシニャク人(総人口377万のうち48%を占める)である。1463年に、オスマン帝国に支配されるようになった後、イスラム教徒、自己をイスラム人と規定する人も多いところである。故郷は、山村、素朴な生活を営む、田舎町、村と言っても良い。大学は、あの百年前の第一次世界大戦が開始される契機と成った、オーストリア皇太子夫妻暗殺の現場となった地であるサライェヴォの大学医学部。
彼は医者でジェニツァ大学教授、俳人、世界の俳句界ではもちろん、毎日新聞や朝日新聞関連でも活躍中。これが簡単な彼のプロフィール。

彼が、故郷の風土、風景を歌う叙情的、叙景的詩人、俳人であることは言うまでもないが、この小論では、日本人からみた、彼の個性、個人的特徴的資質に焦点を合わせて、彼の俳句を観賞しよう。
この作品、俳句集は、四部作すなわち、
『涙』、(献辞)忠実で、親しい人生の連れ合いの、わが妻ジャスミンカに
『野薔薇の芳香』、(献辞)共に仕事をし、気遣い、喜びも分かち合った同僚と友人に
『こぼれ落ちた真珠』、(献辞)勇気があり、誠実で、善意の人々に
『鷹の飛行』、(献辞)ペンから美と思い遣りが溢れ出る、わが詩人たる友達たちに
から成り立っている。これで明らかな様に、彼の作品は、身近な親しい友人たちに宛てたものであることを確認しておこう。

 彼はまず、ボスニア愛国者、愛郷者としてわれわれの前に立ち現れ、故郷のジェパを歌う。

an innocent beauty     四方八方
everywhere— žepa is a tear    無垢の美——ジェパは涙
take your shoes off          靴を脱ぎ祈り給え

 you, the traveller, a friend  友なる旅人よ
do you feel the fragrance of our われらがボスニア魂の
Bosnian soul?             芳しい香を感じるかい?

 Bosanske duše「ボスニア魂」、 miris Bosne「ボスニアの芳しい香、匂い」、「innocent無垢の」などの語句が繰り返し現れる。その極点は

 Bosnia a country    ボスニアは
of man, stone and dreams     人、石そして夢の国
a divine omen             神の前兆

 彼の心の中には、イスラム神秘主義とでもいうものがあり、その底には、神道に似たアニミズムがある。全能なる神はこの世の全てを見ている。口に出しては言えないもの、直感、以心伝心こそ極めて重要なのである。彼は、神を信じる宗教者、敬神の徒であり、祖先崇拝の念が篤い。覚えず、筆者はここに「イスラム、スラヴ文化の交わり」を見る。

 the dawn of honey 蜜の朝焼け
and an ancient call—beware,     古き召命——気を付けなさい
innocent write down everything   無垢なる善悪の二天使が全てを観そなわす

 筆者はここにメモを付け加えている。「ムスリムの教えでは、人間の両肩には、右肩に善なる天使、左肩に悪なる天使の、二人の天使が乗っており、当人の全ての行為を書き記す、よって神から隠しおおせる物は何一つ無い」。

a prayer in a Holy grove      聖なる森で
so as to the oak,           樫の木に向かって祈る
who are these people?        この人たちは誰?

ボスニアにも、古代日本と同じに、森羅万象に神を認めるアニミズムの時代が有った。樫の木は最も神聖なる木として崇められていたのだ。マルクス主義を国是とする時代、社会主義の時代が終わって、人々は大っぴらに宗教帰りを果たしたのであろうか、素朴な宗教感情を抱く人が増えたのであろう。今日、人々はこれらの聖なる場所、聖なる森、聖なる洞窟に詣でて、御先祖様は生き返り、目を覚まして、これらの子孫たる訪問者に吃驚する。

ユーゴスラヴィア内戦の蔭は、彼の俳句に特徴的である。彼は、1993年の「ジェパ大虐殺」のジェパ町出身であり、1995年から、セルビア軍がここを支配しているのであるから、彼がこのような悲しみに満ちた事件を題材とするのも当然なことである。

 tombstones moved to the     墓石が博物館に
museum—yet they are         持ち去られ――ほんとうは
all our kings!        我らの王様のものなのに!

villains, you should know    悪党よ、思い知れ
Hamid is waiting for you – shaheed   永遠の守護となって
on eternal guard             ハミッドがお前等を待っているぞ

  この俳句は、1993年6月5日に殺された、ドゥルミシェヴィッチの故郷三千人弱の人口を持つジェパの長老ハミッドを歌っている。彼の名前は直ちに「ボスニア守護」と同義になったという。またこの故郷では、「ジェパ大虐殺」がこの内戦時に起こった。すぐ側に住んでいた、あの素晴らしき人間が突如犯罪人になりおおせる。詩人にとっては、やりきれない現実だ。
ユーゴスラヴィア内戦、スレブレニツァ虐殺事件、ユーゴ解体も、遠い日本の世界では所詮よそ事に過ぎなかったであろう。日常生活にどのような変化が起きたか、チトー体制下では思いも寄らぬおぞましい事件の数々が、近隣の町町で起こったことを今更ながら我々に思い出させてくれる。彼の作品は、多くは反戦の意を含むが、このような時代も刻印していて貴重である。

 ta divlja ruža the wild rose 野薔薇が咲き誇り、
cvjeta, miri i bode blooms, smells discreetly and stings  慎重に香り、刺す
raste gdje hoce it grows where it wants        好きな所に生きる

 ljeto u Pragu Summer in Prague, プラハの夏
u trenu spazih jednu suddenly I noticed      ああ、ここに
arapsku ružu an Arabian rose       アラビア種の薔薇!

 彼の薔薇への思い入れの濃さが伺われる俳句である。なお、詩人は律儀に5+7+5の定型を守っていることが、原語の母音数から判るであろう。このことが、彼の俳句を非常に短いものにしており、俳句の精神に近いものとしている、とも言えよう。
 最後に、彼は短歌も作歌していることを付け加えておかねばならない。

参照
[第3回世界俳句セミナー]スマイル・ドゥルミシェヴィッチ句集『野薔薇のかおり』コメント(土谷直人 / Naoto Tsuchiya - 夏石番矢代読)2014.2.29
https://www.youtube.com/watch?v=-OBJwPIe4io&feature=youtu.be





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Smajil Drumisevic's "Fragrance of the Wild Rose"
Bosnian Haiku-poet Smajil Drumi&#353;evi&#263;: Fragrance of the Wild Rose ...続きを見る
Ban'ya
2014/05/03 18:01

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内 容 ニックネーム/日時
土谷直人先生、休日出勤のため、夏石がでしゃばることになりました。
Fujimi
2014/05/06 00:48

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